世界中のクリエーターの感性や思考を深掘りする『ISSUE』。新たなインスピレーションのきっかけに。『ISSUE #38』でお呼びしたのは、心の奥底の記憶を呼び覚ます、ノスタルジックな写真が反響を呼ぶ写真家・岩倉しおりさん。今回は「青でキリトル夏」をテーマにお話を聞かせていただきました。
自分にとっての当たり前が外から見ると輝いていた
高校時代、写真部に入ったことからカメラにハマるようになったという岩倉さん。卒業後も趣味として写真を続け、地元のカフェなどで個展を開催していました。そんなある日、地元で撮影した瀬戸内海の写真が、SNSで多くの反響を呼び、いつの間にか仕事の依頼まで来るようになったと言います。
「正直、私にとって地元の風景は当たり前のもので。そんな特別なものだと感じることもなかったんです。SNSを通して周りの人から褒めてもらうことで、私の普段見ている景色は誰かにとっては憧れの景色なのかもしれないって、教えてもらえた気がしました。」
穏やかで静かな「青」がずっと側にある生活
岩倉さんの海や空など「青」を活かす作風は、彼女の強いこだわりでもあります。幼い頃から持ち物も青色で揃え、学校帰りには瀬戸内海のブルーを眺めていた岩倉さんにとって、青は生活に溶け込んだ色でした。フィードの並べ方も意識しており、寒色系で統一した作品しか公開しないほどの徹底っぷりです。
「青を見ると、すごく落ち着くんです。青が持つ静けさのイメージに惹かれているのだと思います。賑やかな場所に慣れていないのもありますが、基本的に静かな空間が好きなんです。だから撮影の時も、なるべく人がいない時間帯を選ぶようにしています。」
「青でキリトル夏」めったに現れない入道雲
岩倉さんの中で、瀬戸内海は夏のイメージが強いらしく、自然と夏に撮影した写真が増えていると語ります。夏の撮影で印象的だったエピソードを聞いたところ、瀬戸内海では珍しい入道雲を撮影した話を教えてくれました。
「普段は穏やかな気候の瀬戸内海ですが、昨年はゲリラ豪雨によって入道雲を見ることができて。友達との夏祭りに向かう途中に入道雲を見つけて、追いかけた時もありました。入道道の子供みたいなのができ始めたら、とりあえずダッシュで向かっていましたね。」
撮りたい風景を一つひとつ塗りつぶす感覚
普段はメモを頼りに作品撮りをすることが多い岩倉さん。自分の中の空想や妄想をメモしておき、その風景を実現できる場所を探すスタイルで撮影されているとのこと。「月が沈んだら?」「雨が降ったら?」などと一つの場所から色んなパターンを予測して、撮影場所を選定するそうです。
「自分が撮りたい風景を繋いで、塗りつぶしていく感覚です。『ここは今じゃないな』と思った場所は、無理に撮らずに置いておくこともありますね。想像通りの景色が見れる時もあるし、『やっぱり違う』みたいな時もあるので、 それもまた面白いなと思ってます。
近すぎるからこそ気づけない美しさ
岩倉さんは現在、地域の魅力を写真で伝える仕事も担当しています。「観光に来てほしいけれど、地元の魅力を伝える方法がいまいちわからない」と相談を受けることも多いそうです。しかし実際に訪れると、どこも素敵な風景にあふれていると感じると、岩倉さんは語ります。
「身近にあるのに実は気づいていないだけって結構たくさんあると思うんです。少し視点を変えるだけで、普段は見知った場所が素敵に見えたりする。そんな瞬間を目にした感動を色んな方に知ってもらえると嬉しいなと思います。」
INFORMATION
主な活動歴
香川県在住の写真家。うつろう季節や、光を大切に、フィルムカメラをメインで撮影している。地元で撮影した写真を中心にSNSで作品を発表する他、写真展の開催。CDジャケットや書籍のカバー、広告写真などを手掛ける。
X : 岩倉しおりiwakura shiori
Instagram:iwakurashiori
Website:iwakura shiori
主な作品 2019年3月、初の写真集『さよならは青色』(KADOKAWA)
cizucu:Iwakura shiori