世界中のクリエーターの感性や思考を深掘りする『ISSUE』。新たなインスピレーションのきっかけに。『ISSUE #16』では、SNSを中心にコーヒーに関する発信を続けるKentaさんとKou.さんへのインタビューを通じて、発信に至るまでの背景やその想いについて迫る。
マネージャーとしてつくりたい環境
大学生時代、たまたま求人で見つけ始めたアルバイトをきっかけに、コーヒーにハマったKentaさん。現在、福岡を中心に全国に7店舗を展開している〈FUK COFFEE〉でマネージャーとして活躍されながらも、バリスタとして現場にも立ち続ける彼は、日々どんな想いを抱いてコーヒーに向き合っているのだろうか。
「『飲食店は立ち仕事できつい』というイメージがあると思いますが、スタッフを含めて楽しく働ける環境づくりを心がけています」。マネージャーという役割への大変さよりも、毎日楽しみながら仕事をすることが大切なポイントだそう。
スタッフ同士の仲良さもさることながら、20代前半を中心に向上心高いスタッフが多いことも、〈FUK COFFEE〉の魅力の一つだ。営業後も頻繁に集まって合同練習をしたり、店舗によってはスタッフ全員での旅行を企画したりすることも。
SNSの投稿をきっかけに店舗に足を運ぶお客様も少なくない。そんなお客様に期待以上のサービスを提供するための努力は惜しまない。スイーツの新メニュー開発、スイーツに合うコーヒーやコーヒー単体で楽しめるコーヒーなど様々なニーズに合わせたコーヒーの用意、そして落ち着いた空間づくりが挙げられる。空間づくりという観点からもスタッフ中は特に心がけている。
写真とコーヒーとの親和性
そして現在、Instagramを中心に様々な視点からコーヒーの写真を投稿するKentaさん。もともと写真に関して詳しかった訳ではなかったが、きっかけはコロナ禍だったそう。
気軽に外出もできない情勢のなか、直接店舗に来ることができないお客様に対して、そして全国のコーヒーラバーに対して、「気軽にコーヒーを楽しんでもらいたい」という想いから、写真や動画のコンテンツ制作を本格的に開始した。
特に投稿の中でも目を惹くのは、ラテアートの写真だろう。国際大会などの大きな大会では、予選での写真選考がある場合も多い。デザインを際立たすために真上から撮影したり、光の反射や入り具合、他に余計なものが写っていないかなど、魅せ方はかなり意識されている。大会に向けて〈Canon〉のカメラも購入した。
しかし、SNSでの投稿のほとんどが、〈iPhone〉で撮影されているということには驚きだ。
「お客様はiPhoneで撮られることが多いので、なるべく環境を合わせるようにしています」と、話す彼のもとには、実際に「同じように撮影したい」というお客さまもたくさん来るそう。
全国に簡単に発信できる上に、お店に直接足を運ぶ動機にもなるSNSでの発信。実際に、同じコーヒー・同じ空間を味わいたいというお客さまの想いが来店のキッカケを生み出し、その期待以上の体験をしてもらうためにも、新メニュー開発やサービスの質向上に努めているという。その循環から生まれる一杯のコーヒーは、我々に充実した時間を与えてくれるにきっと違いない。
「コーヒーは味や香りだけではなく、見て楽しめるものでもある」と話す通り、コーヒーを写真や映像に残すことは有意義なことである。そんなコーヒーを写真で共有する魅力も強く感じている一方で、「温かい状態、美味しい状態で飲んで欲しいので、撮影もほどほどにコーヒーを楽しんでほしい」と本音で語ってくれた。
たまたま求人で見つけたコーヒーショップのアルバイトをきっかけに、今はマネージャーとして活躍するKentaさん。そして、コーヒーを通じて写真と出会った1人といっても過言ではないだろう。
INFORMATION
大学在学時にコーヒースタンドでアルバイトを始めたことがきっかけでバリスタを目指す。ラテアートの世界大会である「FREE POUR LATTE ART GRAND PRIX」でベスト16,32を獲得。現在は、旅人たちが集うコミュニティの場を提供し、旅に出掛けたくなるような仕掛け、空間をコンセプトとして、福岡・長崎・広島・大阪に店舗を展開する〈FUK COFFEE〉のマネージャーとして活動。
Instagram:@ken___ken_
コーヒーを愛しすぎる理学療法士
自らを『コーヒーを愛しすぎる理学療法士』と称するKou.さん。理学療法士というコーヒーと関係のない全くの異業種で働きながら、日々精力的にInstagramにてコーヒーに関する発信を続けているが、彼をそこまで突き動かすコーヒーの魅力は何なのか。また、コーヒーを愛するきっかけはどこにあったのか。
コーヒーにハマったきっかけは約10年前。Kou.さんは理学療法士として、患者さんの体の機能改善や生活の質の向上のお手伝いをしていたが、自らの生活を振り返ると、あまり質の高い生活ができていないことに気づいた。そこで、「休日にコーヒーを嗜むのってカッコいいな」という発想からコーヒーミルとコーヒー豆を購入したことが始まりで、生活を彩るための新たな趣味としてコーヒーと出会った。
そんなKou.さんのコーヒーに対する想いや捉え方は独特である。「豆の生産、物流、焙煎、バリスタ、飲み手、その他の関係者が1つの輪になって、美味しいコーヒーを作り上げていること」に特にコーヒーの魅力を感じているそう。
ただ、SNSで発信するに至ったきっかけは別にあったそうだ。
「僕たちのように医療や介護の分野で働いていると、普段から死というものを身近に感じますが、コロナがあり、広く一般的に死の恐怖や孤独感を感じる方が非常に多く見受けられたような気がしました」、と語るKou.さん。暗いニュースばかりで鬱屈な日々、外に出て気分を晴らすこともしづらいコロナ禍で、「外に出なくても家の中で楽しめることはなんだろう?」ということを考えるようになり、趣味であったコーヒーの発信を始めた。
コロナ禍が落ち着いた現在も、日本では珍しい外国の器具やラテアート、ユーモア満載の動画まであらゆるコーヒーラバーを楽しめせてくれる投稿を行っている。
コーヒーを撮るためのカメラと写真の魅力
そんなKou.さんのSNSの投稿を覗いてみると、さまざまなシチュエーションで撮影されたコーヒーにまつわる写真が並び、まるで画面越しからも芳醇な香りが伝わってくるようだ。そんなKou.さんは、SNSでの発信をきっかけにミラーレスでの撮影を始めた。
「最初はiPhoneで写真も動画も完結していましたが、少しだけ背伸びしてミラーレスを購入しました」と笑いながら話すKou.さんは、使いやすいと雑誌で見た〈CANON EOS Kiss M2〉を使用しているそう。
もともとミラーレスを使っていなかったため設定などは未だによくわかっていないと話すが、「いいな」と思う瞬間にシャッターを切り、味わいの深い写真を生み出すKou.さんの感性は計り知れない。
コーヒー関係の写真しか撮っていないというKou.さんだが、コーヒーを本気で愛する気持ちにその答えがあった。
「ここまで好きなものじゃないと上手く撮れないのではないかな。コーヒーの写真を撮っているときはいいものをお届けしようと思考を巡らしますが、コーヒー以外にあまり興味がないからうまく撮れないんですよね」、この言葉から、Kou.さんの根底にあるコーヒーへの真摯な向き合い方を垣間見た。
同じ器具や豆を使っても、光の入り方や湯気の立ち方が全く違う。そんな一期一会さがコーヒーを撮影する魅力とも話してくれた。
実際に、Kou.さんが撮影した写真や映像は、国内外の多くの人に共感を集め、インスピレーションを与えている。「瞬間を切り取り、人と共有する」という写真に秘められた価値を、最大限活用している1人であることは間違いない。
最近はコーヒーに関係する仕事の依頼も増えてきたと語るKou.さん。
趣味探しの一環でコーヒーと出会い、コロナ禍を機にその魅力を発信する側になり、大好きなコーヒーを通じて写真とは切っても切り離せない関係になった。写真の力はそれ自身にあるのは当然ながら、情報を伝える媒体としての簡便さや情報量の多さ、発信者の意図の入れやすさなど多くの人にとって必要不可欠な力であることが再認識されるのではないだろうか。