世界中のクリエーターの感性や思考を深掘りする『ISSUE』。新たなインスピレーションのきっかけに。『ISSUE #29』では、cizucu主宰のフォトコンテスト『Tender Glances』のオフィシャルキュレーターであり「日常にある非日常を写す」写真家・菊池貴大さんを紹介します。
菊池さんは、現在はメーカーで開発職として働く傍ら、フォトグラファーとしてポートレート撮影を中心に、「日常にある非日常を写す」というテーマで写真を撮り続けています。
旅の景色から人へ、そのきっかけ
元々旅が好きだった菊池さんはその時見た景色を残したいと思ったことがきっかけで、大学4年生の冬にカメラを購入します。
「カメラを買って数年間は国内外問わず、友人たちと沢山の土地を訪れ、その景色を収めました」
その生活はコロナウイルスの流行により、突如として大きく変わります。
「外出が難しくなり、旅に出るどころか人と会うことさえも制限されました。あの時は楽しみが見出せず、辛い日々が続きました」と彼は振り返ります。
「しかし、そんな状況となったからこそ、写真が大切な瞬間をどれほど残してくれていたかを改めて感じました。」この突然の変化が、写真に新たな意味を見出す契機となりました。
対話が導く予期せぬ美しさへ
菊池さんにとって、「撮影は対話」です。
ポートレートはその人自身を映し出す芸術行為であり、「写真は生もの」と考えます。
「撮影は天候や時間、その日のコンディションなどに左右されるため、元々のイメージと結果が異なってくることも多いですが、それが面白いのです」と彼は言います。
固まったイメージに当てはめるのではなく、相手を理解することが重要と考え、撮影の中で自分のイメージを相手にすり合わせていきます。
「相手を変えるのではなく、対話を通して自分のイメージを微調整していきます」
あくまでもその人の内から自然に出てきた仕草や表情を大切にし、その中で自分の心が惹かれた瞬間を収める。それが本当の意味で、その「人」を写すということであると彼は考えます。
「対話を通じて、考えていた自分のイメージを超える瞬間に出会えた時、それがとても幸せな瞬間です」と菊池さんは話します。
見落とされがちな日常の美しさ
菊池さんは基本的に屋外で撮影し、街中の何の変哲もない道など、誰もが目にするような場所で撮ることが多いと言います。これは「日常にある非日常を写す」というテーマから来ています。
「普段見慣れた景色が、全く違って見える瞬間がたびたびあります」
彼が伝えたいのは、何気ない日常を大切にして、身近な人達との時間や「なんかいいな」と小さく心が動く瞬間を残してほしいということです。
「特別な場所や出来事でなくても、ありふれた日常にある瞬間が素敵なことを示したいですし、私の写真が誰かの“ 写真を撮りたい ”と思うきっかけになれたら、とても嬉しいです」と菊池さんは語ります。
「やさしい眼差し」への共鳴
写真に表れる「やさしい眼差し」とはなんだろうか。
「やさしい眼差しで、愛を持ってシャッターを切ること。そうすると、写真には必ずやさしさが宿ります」と菊池さんは語ります。
写真は被写体だけでなく、撮影者自身を映し出すものと捉えています。愛情を込めて撮ることで、そのやさしさが写真を通じて伝わり、見る人の心を温かくします。
菊池さんが選ぶ、「やさしい眼差し」を捉えた写真がどのようなものか、見るのがとても楽しみです。
INFORMATION
1995年生まれ。広島県出身。現在はメーカーで開発職として働く傍ら、フォトグラファーとしてポートレートを中心に役者やモデル、アーティストなどの写真を撮り続けている。
また、企業とのコラボや昨年自身初の個展「Last Days」にて200人以上を動員するなど、活動の幅を広げている。
cizucu:TAKAHIRO
Instagram:@t.k___photo