
日常に宿るノスタルジア
「思い出は美化される」という感覚ありませんか?特に「なつかしい思い出」は、その他の経験と比較して、想起されると美しく、心温まる、味わい深いものとして感じられることが多いです。
今回は、日常のモノが持つノスタルジアという感情価値の理由を言語化し、新しい消費文化におけるノスタルジアの役割を深堀ります。
モノの履歴とノスタルジアの関係
昨日のトレンドは、今日はヴィンテージ。私たちが日常的に使用するモノには、見えない履歴が込められています。一見すると利便性とはかけ離れて、価値を失ったと思われる古着やフィルムカメラ、書籍などが、レトロという文脈で再評価され、異なる価値を生み出しています。モノの履歴には、何故文化的価値が生み出されるのでしょうか。

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人類学的研究の観点から探ると、インドの文化人類学者である〈アルジュン・アパデュライ〉の『モノの社会生活―文化的視点からみた商品』に中古品をめぐる文化的価値の答えが言及されています。〈アルジュン・アパデュライ〉は、モノにも人と同様に生活史があり、モノの交換価値はそのモノが辿った交換・贈与・所有のプロセスに関わる、より広い文化的文脈において理解しなければならないことを指摘しました。
ロマンスという文化的価値
「夏目漱石の万年筆」を例にあげてみます。たとえ万年筆が壊れてモノとしての使用価値を失ったとしても、きっと高い価値が付けられるでしょう。仮に、万年筆に「夏目漱石が月を見ながら恋人に手紙を書いた」という逸話が関連づけられると、その価値はさらに高まるでしょう。このようにモノの履歴における「ロマンス」といった文化的価値によって、モノの価値は決められることもあります。単なる物質的な使用価値を超え、ストーリー、ロマンス、そして、時には失われた時代への憧れを反映します。
例えばコンデジ、フィルムカメラ、古着。これらの掘り出しモノと出会える蚤の市まで。文化的価値に基づく消費行動が生み出したカルチャーであるに違いありません。
新たな消費文化との共存
私たちの消費行動は、シンプルで、使用性・操作性の高い使用価値に基づく一方で、より個人的で意味深いコンテキストを重要視する側面もあります。モノの履歴とノスタルジアは、新しい消費文化の中心にあり、個々のモノが持つ物語や感情的なつながりが重視されています。私たちの周りのモノは、単なる使用品ではなく、個性を表現する手段となっています。
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