『バーベンハイマー』の予告編をめぐり
2023年7月21日、映画『バービー(Barbie)』と『オッペンハイマー(Oppenheimer)』が世界中の映画館で同時上映され、さらにこれら2つの映画は全く異なるストーリーで構成されているため、同時上映のニュースは注目を集める展開になりました。ここで、議論の発端は2つの映画をまとめて見ようという動きのマーケティング運動『バーベンハイマー(Barbenheimer)』のトレーラーが公開されてからのこと。
AIによってつくれられた予告編の中で、特徴的なのはピンクのきのこ雲。
「バービー」のテーマ色となるピンクと原爆の父と呼ばれる「オッペンハイマー」の内容が融合され、生成されたイメージであると考えられる。想像したことのないピンク色のビジュアルと「バーベンハイマー」というタイトルは、観客が両映画を連続して鑑賞したくなるように促しているのかもしれない。
しかし、ここで注目すべきは、これら2つの映画の内容は正反対である点。
「オッペンハイマー」は原爆の父、J.ロバート・オッペンハイマーの真剣な伝記映画であり、一方の「バービー」は有名な人形を主人公に、フェミニズムをテーマにした軽快な実写映画なのだ。
制作における表現の自由と倫理
ピンク色のキノコ雲は、現実には存在しない幻想的なイメージとして目に留まる。こうしたAI生成コンテンツの登場により、新たなクリエイティブな可能性が広がっている。その一方で、特定のテーマやメッセージが異なる国や文化によっては不快なメッセージとして受け取られることもあるだろう。
歴史的な背景を切り離し、単なるピンクのキノコ雲のイメージを見るなら、美しいという印象を受けたのかもしれない。しかし、この生成画像が、原爆の父「オッペンハイマー」の映画のコンテクストを含んでいることで、日本人をはじめとする一部の人々には、画像の意味合いが大きく変わってしまうという事実を制作者側も知っておくべきであろう。
AIの生成したコンテンツが生み出し結果について、建設的な議論を進める必要性があるフェーズに今、我々はいる。
AI生成コンテンツの強い影響力、それに伴い必要とされる社会的責任
AI生成コンテンツは芸術の領域における新たな挑戦である。そのためにクリエイティブの可能性が無限に潜んでいると同時に、制作者には社会的な責任を伴わなければならない。芸術における表現の自由が社会的にどのような波及力を持つか考慮しながら、多様な視点を尊重し、対話と理解を促進するクリエイターとしてのまなざしを心がけたい。
試行錯誤の段階にあるAI生成コンテンツに関して、可能性は閉ざさず、適切な批判と開かれた議論が必要でしょう。テクノロジーを善用な目的で活用していけるかどうか、その結果は、私たちが倫理や美学といった文化の根底にある概念に対してどのような価値観を形成していきたいか、その志次第で変わるだろう。