「そして僕は、コーヒー屋になった」 今年の夏頃にうつ病と診断され、 逃げるように会社を退社した。 何が根本的な理由かは分からず、 ひたすらダメな自分を責めた。 疲れた。 好きだったコーヒーや カフェとは距離ができた。 ある日の病院帰り、よく通っていたカフェ が近かったため、躊躇いながらも 車を走らせた。 「いらっしゃいませ」 そこにはいつも優しく迎え入れてくれる 店主がいた。 「久しぶりですね、お忙しいみたいで」 何気ない一言だったと思う。 店主の優しく包み込むような声で 溜め込んでた気持ちや涙が 溢れそうになった。 涙を我慢し、コーヒーを注文した。 「お待たせしました」 運ばれてきたコーヒーの赤く透き通った 存在感、漂うフルーティーな 香りに魅せられ直ぐに口元へと運んだ。 「おいしい…治った」 傍から見たら、ただの変な 独り言だったかもしれない。 実は、うつ病から起因したと思われる 味覚障害も患っていた。 だからこの時の私は、色んな思いが頭中を駆け巡っていた。 救われたんだ。そう思った。 こんな嘘みたいな奇跡な話は 心の奥底に眠らせるべきだったと思う。 今だから言える。本当に救われたんだ。 店主にはいつか話せる時が来たらいいな。 月日が経ち、様々なご縁の中で 僕は、コーヒー屋になった。 接客や慣れない業務に日々奮闘している。 私はいつか自分のコーヒー屋を経営したいと考えている。 「僕が救われたように、誰かを救いたい」 そんな立派なことは言えないが、 コーヒーを飲んでる時間や空間を幸せと 思って頂けるお店にしたい。 そんな中で誰かの些細な救いになれてたら とても嬉しいと思う。 壮絶だった2023年。 この年を僕は絶対に忘れない。
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